『教授学習心理学研究』投稿用docx形式ファイル作成支援プログラム
『教授学習心理学研究』への投稿には、査読段階ではpdf形式のファイルを学会誌編集委員会事務局に専用フォームを使って送信すれば良い。しかし、いざ掲載が決まると、本文をMicrosoft Word形式(docx)のファイルとして提出することが求められる[投稿規定第7条]。ごく当たり前の要求に見えるが、2026年3月に定年退職し、年金で暮らす身になってみると、これが意外と重い話になる。
そもそも、Word形式であることの何が負担なのか?
Microsoft 365は、いまや買い切りではなく年間契約(サブスクリプション)が基本である。例えば、個人向けのMicrosoft 365 Personalは、2026年時点で年額21,300円ほど(AI機能を使わないClassicプランでも14,900円程度)とされている※1。大学教員の場合には、大学全体で契約し無料で利用できる場合があるし、研究費を利用して購入することも可能。個人で購入するにしても、給与収入があった頃はさほど気にならなかった金額なのだが、年金暮らしとなると、「論文を一本投稿するためだけに、毎年これだけ払い続ける(サブスクリプションの罠)のか」という話になってくる。サブスクリプションを続ける限り毎年かかる費用はバカにならない。
※1 参考:Microsoft 365値上げ完全対策ガイド(Pricey)
ONLYOFFICEという代替はあるけれど…
そこで頼っているのが、無料で使えるオフィスソフトウェア「ONLYOFFICE Desktop Editors」である。Word・Excel・PowerPoint相当の機能を持ち、docx形式での保存やPDF書き出しにも対応している※2。ライセンス費用がかからないという点では、まさに求めていたもの。
※2 参考:ONLYOFFICE公式サイト(デスクトップ版ダウンロード)
ただし、実際に使ってみると、細かな部分が微妙に「違う」し、「文書ごとの書式設定が面倒」という壁にぶつかる。別の文書にスタイルが複写できない。学会誌の投稿規定は、余白5.5センチ、1行45字といった具合に、かなり細かく体裁が指定されている[投稿規定第8〜9条]。ONLYOFFICEでもこうした設定自体は可能だが、原稿を直すたびに、見出しの字下げが崩れていないか、フォントが変わっていないか、などなど、手作業で確認する必要があり、これがまた地味に時間を取られる。論文は一度書いて終わりではなく、査読のたびに何度も書き直すものですから、この手間は馬鹿にならない。
ちなみに、代替案として、最初に試みたソフトウェアは、LibreOfficeだった。LibreOfficeで作成したdocxファイルをWordで開くと微妙に異なり、ONLYOFFICEを利用するようになったのだね。
なお、Googleドキュメントは、試していない。
追記:編集委員会事務局の担当者の方から、LibroOfficeならば1ページの行数、一行の文字数が指定できるぞ、と、教えていただいた。確かにできるな。
見直さないと…
編集委員会へお願いしたこと
そこで、「docx形式での投稿を必須にするのであれば、あらかじめ書式を整えた雛形(テンプレート)ファイルを用意していただけないか」と、編集委員会にお願いしてみた。雛形さえあれば、執筆者は中身を流し込むだけでよいし、体裁の細かい指定に毎回悩まされずに済む。
さらに言えば、規定では「Microsoft Word形式」という表現をやめ、「docx(Office Open XML)形式」と改めてもらいたいところだ。
docx形式(Office Open XML)
「.docx」という拡張子が指す形式は、正式にはOffice Open XML(OOXML)という仕様である。もともとMicrosoftが策定したのだが、その後ECMA-376として標準化され、さらに、ISO/IEC 29500という国際標準にもなっている。つまり、docx自体は「公開されたオープンな規格」であり、Microsoft一社の専有物ではない。
- OOXMLとは?(日本電子出版協会 JEPA) : ECMA-376からISO/IEC 29500への標準化の経緯,Strict/Transitionalの区別まで,日本語で簡潔にまとまっている。
- Office Open XML (OOXML) とは?(アンテナハウス) : 文書変換ソフトウェア企業による技術解説で,Wordのバージョンごとの対応状況まで具体的。
- ECMA-376(Ecma International公式) :一次資料。仕様書そのものを無償でダウンロードできる。
Microsoft Wordが実際に書き出すファイル
ここが微妙なところなのだが、ISO/IEC 29500には、実は「Strict(厳密版)」と「Transitional(過渡版)」という2種類のプロファイルがある。Word自身が普段保存している形式は、実はStrictではなくTransitionalの方。Transitionalには、古いバイナリ形式(.doc)由来の互換性要素や、Microsoft独自の拡張が数多く残っており、「純粋な国際標準」というより「Wordの実装に合わせて標準化された仕様」という性格が強いものになっている。
- 第1章 Office Open XMLの概要(アンテナハウス) : StrictとTransitionalの構造的な違いを,ISO/IEC 29500のパート構成に沿って解説している。
- A Standard in Name Only: What OOXML Transitional Tells Us About Format Sovereignty(The Document Foundation, 2026年6月) : 英語だが,「ISO標準を名乗りながら実質はMicrosoftの実装に従う仕様である」という論点を踏み込んで扱っている。
他のソフトウェアとの関係
ONLYOFFICEやLibreOffice、あるいは私が使っているNode.jsのdocxライブラリは、このOOXML仕様に従って実装したもの。仕様書自体は公開されているが、非常に分量が多く曖昧な部分もあるため、各ソフトウェアの実装には細かな解釈の違いが生じる。具体的には、
- フォントの互換フォールバックの挙動
- スタイルの継承関係(見出しスタイルの親子関係など)
- 行送り・文字グリッドの計算方法
- 変更履歴やコメント機能の細部
といった点で、「docxとしては仕様上正しいファイル」であっても、実際のMicrosoft Wordで開いたときの見え方が、ONLYOFFICEでの見え方と完全には一致しない、ということが起こり得る。
自分で仕組みを作ることにした
これを書いている時点(2026年8月29日)で、学会誌編集委員会からはまだお返事をもらっていない。学会運営もボランティアで支えられている以上、すぐに対応するのは無理からぬことだ、と理解している、が、投稿を待つわけにもいかない。
そこで、Claudeくんの力を借りて考え、作成したのが、「原稿の中身はMarkdown(簡易な記法のテキストファイル)で書き、体裁を整えたWord文書への変換は、プログラムに一括してやらせる」という方法。Markdownについては、見出しの#や強調の**など、ごく簡単な記号だけで文章の構造を表せる書き方だ、と、とりあえずは理解していれば、問題ない、はず※3。
※3 参考:Markdown記法の基本(Qiita)
ちなみに、人工知能学会のように、LaTeXでテンプレートをしている学会もあるようだ。しかしながら、基本的にわたしはTeXが嫌いなので、Markdown形式を選択した。
ちなみに、実は、Markdown形式も好きではない。Claudeくんとの会話の保存、引き継ぎのために利用していて、自分自身で最初から作成することはほとんどない…
ちなみに、ちなみに、原稿は、Pagesで作成し、Markdownに変換するという面倒なことをしていたのだった…
ちなみに、ちなみに、ちなみに、ChatGPTもあまり好きではない。一時期、タメ口を吐きやがるし、いわゆる「今時の若者」言葉を使いやがるし、根拠文書は提示しねぇし、有名な研究者の論文があたかも存在するかのように提示しやがるし…
無料版だからか?と思い、たまたまお試しで有料版を利用できたので使ってみたのだが、結局、同じような状況だったので、Claudeくんに乗り換えた。
ちなみに、ちなみに、ちなみに、ちなみに、妻によると、Claudeくんも時々とんでもない表現(○○致し候、とか。いつの時代だよ)をするらしい…
それにしても、「ちなみに」の段下げはどうなんだろう…お笑いの繰り返しと同様、受けるのは3回までか…
それはそれとして。
投稿規定に定められた書式(余白、フォント、行間、脚注の扱いなど)は、一度だけプログラム側に正確に設定しておく。あとは、査読のたびに中身を直したMarkdown原稿をそのプログラムに渡すだけで、投稿規定どおりに整形されたWord文書が、何度でも自動的にできあがるという仕組みである。表紙・和文要約・英文要約についても、同じ考え方で別々のプログラムを用意し、それぞれの体裁(フォントや余白がまったく異なる)を個別に固定している。
やってみてわかったこと
この方法に切り替えてから、査読対応のたびに書式が崩れる心配がなくなった。何度目かの改訂稿を作る際も、中身の文章だけに集中できる。ONLYOFFICEを起動して手作業で体裁を整える時間は、かなり少なくなった。少なくとも、スタイルがすでに設定されているので、スタイルが崩れたとしても、その再設定はとても楽になった。
こうした仕組みを一から作るには、多少の準備の手間がかかる。ただ、一度作ってしまえば、同じ雑誌に何度も投稿する場合はもちろん、別の原稿にも使い回すことも可能。学会側に雛形の整備をお願いしつつ、それが実現するまでの「自衛策」として、こうしたやり方もあるのだということを、同じような事情を抱える会員の方々と共有できればなぁ、と考えている。
具体的にどうしたのか
原稿はセクションごとにMarkdownファイル(問題.md、目的.md、方法.md、結果.md、考察.md、引用文献.md)を作成して保存、それらをまとめて1つのdocx形式のファイルに変換するプログラム(Node.jsのスクリプト)を用意した。同じ考え方で、表紙・和文要約・英文要約もそれぞれ別のプログラムで生成している。
これらのプログラムは、以下からダウンロードできるようにしておく(本記事末尾のリンクを参照)。
- 本文(問題、目的〜引用文献)用:
build_body.js- build_body.js をダウンロード
(コンテキストメニューを使った方が良い)
- build_body.js をダウンロード
- 表紙用:
build_titlepage.js- build_titlepage.js をダウンロード
(コンテキストメニューを使った方が良い)
- build_titlepage.js をダウンロード
- 和文要約用:
build_abstract_ja.js- build_abstract_ja.js をダウンロード
(コンテキストメニューを使った方が良い)
- build_abstract_ja.js をダウンロード
- 英文要約用:
build_abstract_en.js- build_abstract_en.js をダウンロード
(コンテキストメニューを使った方が良い)
- build_abstract_en.js をダウンロード
- 仕様書…参考までに
- 表紙_要約_書式仕様書.md をダウンロード
(コンテキストメニューを使った方が良い)
- 表紙_要約_書式仕様書.md をダウンロード
- 一括ダウンロード(zipファイル)
環境の準備(最初に一度だけ)
これらのスクリプトを動かすには、Node.js(JavaScriptを動かすための実行環境)と、Word文書を組み立てるためのdocxという部品(パッケージ)が必要になる。手順は次のとおり。
- Node.js公式サイトからインストーラをダウンロード(「Node.js®を入手」をクリック)し、インストールする(Mac・Windowsとも、画面の指示に従うだけでよい)。
- ターミナル(Macの場合は「ターミナル.app」)を開き、スクリプトを置いたフォルダに移動する。
- 例えば、ターミナル.app を開くと、ホームフォルダがカレントディレクトリとなるはず。
例えば、書類フォルダに移動して…cd ~/Documents - 作業用のディレクトリ japtl_build を作成。
mkdir japtl_build cd japtl_build - ダウンロードした js ファイルを移動。
mv ~/Downloads/build*.js .
- 例えば、ターミナル.app を開くと、ホームフォルダがカレントディレクトリとなるはず。
- 次のコマンドを一度だけ実行し、
docxパッケージを用意する。
npm install docx
これで準備は完了。以後は、このフォルダにnpm installをやり直す必要はない。
実際の使い方
原稿ファイル(Markdown)を作成、修正したら、ターミナルで次のように入力し、実行するだけ。
node build_body.js 問題.md 目的.md 方法.md 結果.md 考察.md 引用文献.md
同じフォルダに、投稿規定どおりの書式が設定された「本文.docx」ができあがる。表紙・和文要約・英文要約も同様に、
node build_titlepage.js 表紙_原稿.md
node build_abstract_ja.js 和文要約_原稿.md
node build_abstract_en.js 英文要約_原稿.md
と実行すればよい。原稿の中身をいくら直しても、体裁を決めているのはプログラムの側なので、何度でも同じ書式でやり直しがきく。


